セッションの予約が減り始めたのは、ある匿名投稿が拡散された直後だった。
「波動調整師・佐藤翔太氏のセッションで、精神的に不安定になった知人がいます。これは本当に“癒し”なのでしょうか?」
その一文はXで瞬く間に広まり、引用リツイートには「怪しい」「洗脳」「詐欺では?」という言葉が並んだ。翔太のアカウントには罵倒のDMが届き始め、セッションのキャンセルが相次いだ。
かつて「先生のおかげで救われました」と言っていた信者たちは、徐々に距離を取り始めた。霧島レイのYouTubeチャンネルへと流れていく者も多く、翔太の投稿には、以前のような“いいね”はつかなくなっていた。
広告費は膨らみ、物販の在庫は倉庫に積み上がり、月商は100万円を割り込んだ。翔太は焦りを感じていた。だが、心の奥では、これは宇宙が自分に試練を与えているのだと信じようとしていた。
「信者は“物語”に飽きるんだよ。新しい“奇跡”を見せなきゃダメだ」
田村圭吾の言葉が頭をよぎる。翔太は、さらに過激な商品を開発した。宇宙DNA活性化セッション、龍神の加護・特別版、魂の契約解除儀式——どれも高額で、神秘的な響きを持たせた。
数日後、翔太のもとに警察から連絡が入った。美咲が睡眠薬を大量に飲み、自殺未遂を起こしたという。病院のベッドで目を覚ました彼女は、家族に囲まれて泣いていた。
しかし、反応は鈍かった。信者たちは、より新しい“教祖”に流れていた。業界の競争は激しく、霧島レイは毎日動画を更新し、若くて美しい彼女の言葉に人々は熱狂していた。
翔太のセッションに通っていた中川美咲も、変わり始めていた。以前のような明るさは消え、目の下には深いクマが刻まれていた。服装も乱れ、髪は乾燥していた。
「先生、最近、波動が下がってる気がするんです……」
怯えた声でそう言った美咲に、翔太は微笑みながら答えた。
「それは、カルマの浄化が進んでいる証拠ですよ。痛みは成長の前兆です」
その笑顔に、かつての温かさはなかった。美咲はうつむいたまま部屋を出ていった。その背中は、どこか壊れていた。
数日後、翔太のもとに警察から連絡が入った。美咲が睡眠薬を大量に飲み、自殺未遂を起こしたという。病院のベッドで目を覚ました彼女は、家族に囲まれて泣いていた。
「先生の言葉を信じて、すべてを失いました」
その言葉は、彼女の最後の祈りだった。
SNSでは、美咲の家族が告発を始めた。「詐欺師」「洗脳」「責任を取れ」——翔太のアカウントには罵倒のメッセージが殺到した。
実家の食卓では、母・玲子が新聞を広げながらつぶやいた。
「あなた、もう少し普通の仕事に戻ったら?」
その言葉には、怒りも悲しみもなかった。まるで、天気の話でもしているかのような、乾いた口調だった。
翔太は、自分が築いた“癒しの世界”が、誰も救っていないことを知った。信者も、自分も、母も——誰も癒されていなかった。
それでも、彼はスマホを開き、Xにこう投稿した。
「波動が整えば、すべてはうまくいく。信じる力が、現実を変える」
その投稿には、かつてのような“いいね”はつかなかった。
翔太は思った。
「俺は、もう誰にも必要とされていないのかもしれない」

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